ピカチュウケーブルが僕たちに教えてくれたこと
リビングの棚の奥深く、そこには埃被った懐かしのアイテムがあった。
ピカチュウケーブルという。ゲームボーイカラー専用の通信ケーブルがピカチュウ仕様になった実に可愛らしいアイテムである。本当は両端に1匹ずつ、計2匹のピカチュウが居るはずなのだが、片方が消失している。
私は当時自分専用のゲームボーイカラーというものを所持しておらず、姉がプレイしているのを横から覗き込んだり、姉が64でカービィをやっている間に少しやらせてもらったりと、そんな感じの家庭内ヒエラルキー最下層の末っ子ゲーマーであった。長女は金版、次女は銀版を所有していた。
さて、次女(以下、長女は登場しないため姉とする)はよく近所の友人(以下Mちゃん)と通信交換や対戦をしていた。ケーブルはMちゃんが所持していたため、それを借りていた。しかし毎回借りてばかりでは面目が無いというものである。そんな中ある日家族で、当時日本橋に出来て間もないポケモンセンタートウキョーへ行った時のことである、そいつと出会ったのは――――
可愛らしいデザインに一瞬で惹かれ、即購入に至った。翌週には自慢も含めて姉はMちゃんとピカチュウケーブルを使って通信をすることになった。Mちゃんもピカチュウが画面横に存在することに嬉し気だった。和やかな雰囲気で始まったポケモンバトル。姉が自慢のメガニウムを繰り出そうとしたその瞬間、事件は起こった。
「ゆけっ!オクタン!」
「………………………………?」
おめでとう!メガニウム は オクタン に しんかした!
えっ?いや、姉の手持ちにもMちゃんの手持ちにもオクタンはいませんけど?
そう、バグった。こっちが衝撃的で記憶が定かでないが、確かMちゃんも手持ちと異なるポケモンが出たと思う。幼少期に遭遇するバグや不具合の類は、怖い。windows95の警告音も、怖い。マリオワールドの鍵ゴールも、怖い。ピクミン2のアメボウズも、怖い。
さて、驚きと恐怖で姉は半泣きになりながら、とりあえず技を選んだ(子供のころは下手に電源を消すことに危険を感じていたため)。確かみずでっぽうとかその辺を選んだと思う。
「オクタンのはかいこうせん!」
おい!!!命令無視すんな!!!!!技隠し持つな!!!!!!
ちなみに金銀ではLv70で覚えるらしい、はかいこうせん
そんな訳で出るポケモンも繰り出す技もしっちゃかめっちゃかのカオス通信対戦、フリーズだろうか、通信待機中画面から動かなくなり、結局電源を切ることで幕を閉じた。Mちゃんが所有する普通のケーブルで改めて対戦をしたら何事もなく進んだ。
この事件に懲りた姉はピカチュウケーブルを棚の奥に封印した。ひょっとすると、失われた片方のピカチュウは封印解除のキーなのかもしれない……
そして後日、姉はトイザらスから帰ってきてあるものを私に見せつけた
「見て見て!これトゲピーケーブルっていうんだよ!かわいいでしょ!!!」
悲劇の第二幕、始まる――――
おわり