12/14(月) 25.51232877の憂い、70分間の静止した闇の中で
これから展開されるしょうもない駄文に可能な限りカッコいいタイトルを付けたかった。久々の日記である。冒頭から「駄文」という予防線を張ったが、何かの間違いで面白くなるかもしれないので最後までちゃんと書こうと思う。
退勤します
Slackに一報入れてオフィスを去る。時刻は18:30頃。ほぼ定時の退社である。
などと、如何にもリーマンのルーチンが如く、日常的描写が如く文章にしているが、実のところ出社は1ヶ月ぶりであり、合計出社回数は2桁に満たない程度のフルリモート会社員である。正直久々の早起きだし久々の会社の快適な椅子だしで眠気が異常だった。カフェインが日常に浸透し過ぎていてその役割を果たしていない。社会人になってからこんなにコーヒーを飲むようになるとは思わなかった。夕方に飲むコーヒーは何故こんなに美味しく感じるのか。
やや足早に駅へと向かう。2桁に満たない程度の出社回数だが、オフィスから駅までの道の最短ルートは覚えた。ここで信号を渡っちゃうのは初心者だって私は知っている。囲碁で言えば初手天元みたいな行為だ。はい、ヒカルの碁でしか知らない知識で発言しました。足早である理由は先ほど来た電話である。スマホ修理屋からバッテリーが入荷したという連絡が来たのだ。マイナー機種故取り寄せが必要だったのだ。
この1ヶ月バッテリーが限界なマイスマホと付き合いながら常に悩んでいた。買い換えるか、バッテリーを替えるか、自分で交換するか、修理を頼むか。2年前のハイエンドモデル故、正直全く不便していない。ゴリゴリの3Dゲームはやってないしこの先やる予定もないので替える必要性がない。バッテリーを買って自分で交換すれば3000円ちょっとで足りるのか。ああガッツリ分解するタイプのか……。流石に失敗したら悲しい気持ちになるやつだな。業者だと1万円か。手間賃7000円と思えばそんなに高くはないかな……。
なんて。
人生で最も無駄な逡巡。社会人になって金銭の余裕ができたのだが、根本的なケチの性分が消え去っていない証拠である。そんな無駄な1ヶ月の末の結論が今私が向かっている場所なのであった。
12月
もう12月だ。電車に揺られながら窓の向こうに映るチカチカした何らかをぼうっと眺め師走の到来に恐怖する。12月ということは6月である私の誕生日から半年が経過したということになる。つまり今の私は25.5歳だ。既に25歳の後半戦が始まっていたのだ。
………………………。
そういう換算、やめようって……。
刻むのやめようって。
人生の先駆者は皆口をそろえて言う。20代の後半はあっという間だよ、と。
この言葉は錐のようなもので首元に捩じ込むかの如く、私に刺さっている。それは平日の大半を仕事で過ごすようになった人間の宿命なのだろう。早く時が過ぎてくれ、早く休日になってくれと自分の方から願っているのだから、そりゃあ世界だって加速する。今日の仕事が一生続けばいいのになあ楽しいなあと意気揚々としていれば世界は減速するかもしれない。
他の言葉は刺さらないのに、時間の話だけザクザクと刺さる。
徹夜が辛くなるよ。食べたら食べただけ太るようになるよ。油もので胃がもたれるよ。周りの結婚ラッシュが辛いよ。ちょっとしたことで体力の衰えを感じるよ。
皆口を揃えてそういうが、私はまだそのいずれにも当てはまっていない。それは半分は自分の努力の甲斐あってのもので、半分は環境によるものであると思っている。努力とは運動だ。なんだかんだで購入した5月頃から今までリングフィットアドベンチャーも続けているし、ランニングやら自転車やらも偶にではあるがする。おかげで6月の健康診断から約5kg痩せたし、何より体調が優れている自覚がある。体力の衰えどころか明らかに大学院生時代よりも活力がみなぎっているし、太りにくい体質になっているはずだ。まあ外食が減って暴食する機会も減ったという理由もあるのだろうが。これがもう半分の環境的要因だろう。テレワークによる心身のゆとりや食生活の安定化が大きい。研究室に夜中まで籠ってごつもり塩焼きそばをほおばっていたあの頃とは比べ物にならないレベルの文化的生活を送っている。つくづく、自分はアカデミアの世界に向いていなかったんだなぁと呆れてしまう。
話が逸れ気味なので戻すと、まあ不可抗力ということだ。時間以外の20代後半あるあるは努力と環境でカバーできているが、時間だけは根本的に解決不可能なのだ。仕事を辞めて1日中ゲームをして過ごせば少しは時間の流れが遅く感じるのだろうか。或いは秒針を無心で見つめ続ければ、だんだんとその動きが遅く見えたりするのだろうか。クロノスタシス永久バージョンが見れるのだろうか。
…………まあ、しないけど。仕事も続けるし時計はデジタルで見るし。
こうなったら可能な限り年齢を細かく刻んでやろうと思った。私の誕生日から今日までの経過日数を365で割って極限まで刻んだ年齢を出してやろうと、そう思ってスマホのカレンダーと電卓を行き来した。
25.51232877
25.51232877歳だそうだ。今日これ以降誰かに年齢を聞かれたら25.51232877歳です!って答えてやろう。一日一日を大切にしていることが伝わるに違いない。
1人で電車に揺られている時は大抵こんなくだらないことを考えている。また時間を無駄にしてしまった。
70分間私から尊厳が失われるらしい
尊厳はスマホと読む。修理時間は70分なのでその間スマートフォンは使えない。
この新宿で?スマホ無しに70分間を……?
で、できらぁ!
とはいえ新宿駅から西武新宿駅までの道のりすら未だに把握できずに15分くらい浪費してしまった私が70分間で何をできるというのだ? もしかして隣の雑貨屋でマネキンごっこをして70分間棒立ちしていた方が良いのではないか?
暗中模索である。実際に街は夜で、私はメガネを外しているので、物理的にも暗闇だ。メガネはつけなさい。だがこの暗中模索を逆手に取って70分間を生きたら、それはとても楽しいのではないだろうか。
スマホを見ずに夕食の店を決めて、スマホを見ずに暇つぶしスポットを散策する。
この闇の中から一筋の光を見出してみようじゃあありませんか。
さて何を食べよう。最も安パイなのは行ったことのあるラーメン屋に行くこと、次いで行ったことのあるチェーン店に行くこと、更に次いで行ったことはないけど有名なチェーン店に行くこと。
………………ダメだ。
それじゃ勝ったことにならない。完璧に勝つ♧だろ?ゴン♡
ラーメンじゃなくて、未開拓で、それでいて有名チェーンじゃないところにしないとこの勝負は勝ちにならない。自分だけの最強飲食店を見つけるんだ。
と、散策すること10分。ビビッと来たのは「海鮮丼」だった。
ここしかない。繁華街で海鮮丼は一見外れに見えるが、実は店長が太いパイプ的な流通経路を持っていたり、毎朝3時から市に行ってどうのこうのしているに違いない。よし、このまかない丼ってのに決定! 負けないと音が似ているから。じゃあカツ丼食えよ!
店内、人、少。店員、大声、会話。接客、接客?
いや、穴場の条件は満たしたから。店員が不愛想なのはラーメン屋では名店あるあるだから。ちなみにここはラーメン屋ではない。
着丼。写真より小さい気がする。普通に美味しそう。いただきます。別皿のわさび多っ。致死量か?
………………………ふむ。
普通に美味しい。まあそんな感動するほどでもなく、でも一定の水準は満たしている美味しさ。味噌汁は薄い。松屋より薄いかも。でも海鮮丼に醤油かけたから口直しにはこれくらいの薄さでいいのか。写真では気づかなかったけどたくあんが入っているのか。正直たくあんは苦手なのだが魚の風味で漬物特有の嫌な味(漬物業界の人すみません)が無くてただの食感的アクセントになっている。ので、普通に良いかも。悪くなし。
ごちそうさまでした。
うん、めちゃくちゃ普通だったわ!!!!
もちろんいい意味で外さなかったということなのではあるが、私のビビッとが無難であったことがショックだったし、ネタ的に面白くなかった。大外れか大当たりを引きたかったね……。
次は外に写真が一切ない店をチョイスしようか。次なんてタイミングが訪れるのかという話だが。
さて、時間まであと40分程度ある。適当にゲーセンのクレーンゲームを眺めたり、クレーンゲームに多額の投資をするおっさんを眺めたり、何度もバウンドするミッフィーのぬいぐるみを眺めたりしていた。そうこうしていたら残り10分。
今から修理店に戻るくらいでまあ少し余裕がある程度だろう。歩を進める。
なんだかえらく人通りが少ない通りに来たな、と思っていたら。
「あ!お兄さーーーーーーん!!!これ、今日もう終わりなのでどうぞ!!!」
お兄さんが私をお兄さんと呼んできた。何か飴を貰った。
「お兄さん本当にラッキーですね!!!今日の残りあと1個だけ、なんと無料で貰えちゃうんですよ!お兄さん○×○△□ってどっちがいいとかありますか~~???」
ん、何だ。話が終わってなかったし何かセールストーク始まってないか?
肝心なところが何も聞こえなかった。
私「あ、えと、え、、、、、あ、、、え」
「んん~~~~~????????」
怖い!!!この人ロールプレイングの徹底ぶりが異常だ。表情一つ変えねえしずっと作られた笑顔でこっち見てくる!!
これまずい勧誘とかなのでは。だとすれば私は飴でつられた小学生レベルのバカってことにならないか。いや今時飴で釣られる小学生の方がいねーって!
そうだこういうときは予め録音をして言質を取っておくとぼったくりとかにあっても被害が最小限になるとかなんとか聞いたことある! ってスマホが無い!!! 1人で脳内コントしてる場合じゃねえ!!!
「あ~~このキャンペーンのこと知りませんでしたか???お兄さん、今ポケットWi-Fiとかって使ってます???」
はっ、そういう売り込みだったのか。怪しいもの売りつけられるとかでは無さそうでとりあえず安心。でも相変わらず硬い仮面でロールプレイするお兄さんがめちゃくちゃ怖いので出任せで「めちゃくちゃ通信環境整ってます。もういろいろ契約しちゃってて……」とか嘘をついてしまった。
「あ~~そうなんですね~~!呼び止めちゃってごめんなさい!そのお菓子はプレゼントなのでどうぞ!!!!」
いやあっさり帰すんかい……。
基本的に私は街中やお店で話し掛けられたらやれやれこいつらも大変だな話くらい付き合ってやるかというムカつく大人をしているのだが、夜の繁華街では迂闊にそういうことをしないようにしようと心に誓った。特にスマホが無い時は。
帰ってきた尊厳
ああスマホよ。お前を待っていたぞ。動作確認で店員に「ちいかわ」のツイートお気に入り通知をオンにしていることをバッチリ見られたけどそんなのどうだっていいさ。お前が居ないと私は飯で感動できないし、困ったときに言質を取れないんだ。今度からは隣の雑貨屋でマネキンごっこをするから。もう二度と闇の中を歩いたりしないから。
そんなどうしようもない25.51232877歳を終え、明日には何歳になるのだろうなどと考えていた。
そんな計算すらも、私はスマホが無いとできないのだ。